〜分断から統合へ、制度をまたぐ視点が問われている〜
少子高齢化の進行により、日本の社会保障制度は引き続き強い財政圧力にさらされています。
中でも医療費の適正化は、長年にわたり政府の重点課題とされ、入院日数の短縮、ジェネリック医薬品の推進、重複投薬の見直しなど、様々な取り組みが行われてきました。
その一方で、**「医療費の抑制=医療提供体制の縮小」**という一面的な見方に偏ると、地域医療の崩壊や、現場の負担増という副作用も生じます。
今、政策の焦点は**「医療単独での最適化」から「医療と介護を統合した効率化」、あるいは「自己負担の見直し」へと移りつつあります**。
では、今後の医療費適正化政策の方向性として、何が問われているのでしょうか?
現行制度では、医療と介護は別建ての保険制度・報酬体系に基づいて運営されています。
そのため、以下のような**「制度の谷間」や「連携の非効率」**が生じがちです:
入院医療の終了後、介護側の受け皿がなく“医療機関に留まる”
ケアマネと医療機関の情報共有が不十分で、再入院リスクが高まる
医療サイドの処方薬が、介護サイドで活かされず“在庫の山”になる
こうした“分断”は結果的に、制度全体の支出増やQOLの低下につながっています。
今後の医療費適正化においては、**医療と介護の「連携強化による合理化」**が鍵を握ります。
たとえば:
地域包括ケアシステムの再構築(医療と介護の統合的マネジメント)
情報共有インフラの整備(LIFEや電子カルテ連携の推進)
地域内“共通ケアプラン”の導入検討
など、縦割りを越えた運用設計が求められています。
一方で、自己負担の引き上げも現実的な選択肢として浮上しています。
実際に以下のような政策が進行・議論中です:
75歳以上の医療費窓口負担を「1割 → 2割」へ(一定所得以上対象)
高額療養費制度の見直し(上限額や世帯合算ルールの調整)
介護保険における自己負担割合の拡大(2割・3割対象者の範囲見直し)
これらの政策は、財政健全化には寄与するものの、現場の受診抑制やサービス利用控えを招く可能性もあり、慎重な設計が必要です。
とくに、独居高齢者や支援が届きにくい層では、「必要な医療・介護にアクセスできない」という事態を招く恐れがあります。
経営者・管理職として問われるのは、単なる制度の追随ではなく、制度の変化を先取りした“連携と効率化”の仕組みづくりです。
医療機関と介護施設の連携プロトコルを標準化する
退院調整や介護への移行を見据えた院内体制を強化する
「医療と介護のどちらが主役か」ではなく「患者・利用者の状態に応じて最適なリソースを調整する」視点を育てる
また、個人負担増の流れに対応して、利用者の“納得感”を支える説明力や記録の充実も不可欠です。
医療費適正化の今後の焦点は、「医療の中で削る」から「制度横断で支出をコントロールする」というフェーズへと移行しています。
医療・介護現場が今後意識すべきは、制度をまたぐ視点を持ち、連携と自立を両立する経営と運用を実現することです。
当社では、医療・介護横断の地域連携設計や、現場主導での効率化プロジェクト支援を行っております。
制度の変化をチャンスと捉えた体制づくりに関心がある方は、ぜひご相談ください。