コラム

現場スタッフを“やらされ感”から解放するリーダーシップとは

コラム

〜自発性を引き出す関わり方の工夫〜

「やれと言われたからやる」現場の危うさ

「また新しい取り組み?どうせすぐ終わるよ」
「言われたからやっているだけで、自分の意見は通らない」

──医療・介護現場で、スタッフのこんな言葉に心当たりはありませんか?
リーダーが一生懸命に動いていても、現場に“やらされ感”が蔓延していると、改善活動や委員会運営は形骸化し、成果につながりません。

これは生産性向上の重点課題です。
やらされ感のないマネジメントは、従業員が自発的に仕事に取り組む環境を作り出すことを目指します。
このアプローチは、スタッフ一人ひとりのエンゲージメントを高めるとともに、組織全体の生産性向上にもつながります。

まず重要なのは、健全な危機意識を持たせることです。危機感は、従業員が当事者意識を持つ原動力です。
そしてマネジメントには、スタッフが挑戦的な目標に向かって取り組むよう促す姿勢が求められます。そしてその過程で得られる学びや成長の価値を強調することが、内発的な動機づけにつながります。

では、どうすれば現場スタッフが「やらされている」のではなく「やっている」と実感できるようになるのでしょうか?
そのヒントとなるのが、「巻き込む」よりも一歩深い、“任せて支える”リーダーシップです。

「共感」と「背景説明」で、意味づけを伝える

人は、自分が納得していないことには本気で取り組めません。
リーダーが取り組みをスタッフに伝える際、**「なぜ今これをやるのか」**という背景や意図を、感情を込めて説明することが重要です。

たとえば「感染対策を見直す」という業務であっても、

  • なぜこのタイミングで着手するのか

  • これまでの課題や改善点は何か

  • それが自分たちの現場や患者にどう影響するのか

──これらを丁寧に説明することで、スタッフの納得感と共感は大きく変わります。

さらに大切なのは、スタッフが自らの業務に誇りや責任を持てるような関係性を築くことです。
リーダーは、日々の仕事がどのような価値を生み、組織全体にどんな影響を与えているかを具体的に伝えることで、スタッフ一人ひとりが自分の役割に納得し、意味を見出せるようサポートする必要があります。

こうした働きかけにより、現場は単なる「業務の受け手」ではなくなり、主体的に行動する当事者としての意識を持つようになります。

「任せる」ことで、現場の力を引き出す

現場スタッフが受け身になる理由の一つに、「どうせ自分たちには決められない」というあきらめがあります。
これを打破するには、現場に一定の裁量を渡す勇気が必要です。

たとえば、新しい取り組みについて

  • 実施方法を現場で決めてもらう

  • 実験的に1週間だけ試してもらい、意見をもらう

  • 成果の測定基準をスタッフと一緒に設定する

──こうした「余白」を与えることで、現場は責任と創造性を発揮し始めます。

もちろん、丸投げするのではなく、リーダーは困ったときにすぐ相談できる安心感を提供し、「見守りながら支える」スタンスが欠かせません。

加えて、マネジメントのあり方そのものを見直すことも重要です。
一方的に指示を出す従来型の管理手法から離れ、現場との双方向の対話や日常的なコミュニケーションを重視するスタイルへと転換することで、信頼関係は確実に深まります。

従業員が**「自分の意見や工夫がきちんと受け止められている」**と感じられる環境では、自然と前向きな行動が生まれやすくなります。

さらに、日々の小さな声かけや進捗確認といった定期的なフィードバックは、スタッフにとって自身の取り組みがきちんと認識されているという安心感につながります。
これは「自分はチームに必要とされている」「信頼されている」といった感覚を育み、継続的なやる気の源泉になります。

こうした要素──一定の裁量を持てること、対話を通じた関係構築、こまめなフィードバック──が重なり合うことで、義務感ではなく、自発性に支えられた職場文化が育まれ、結果として組織全体の生産性とエンゲージメントの向上につながっていきます。

「成果」ではなく「過程」に目を向ける

とくに改善活動や新人教育など、短期間では数字に表れにくい取り組みでは、過程を見て承認することが、継続のカギになります。

  • 工夫した点に目を向けてフィードバックを返す

  • 小さな変化でも取り上げて称賛する

  • 成果が出なくても「試したこと」を評価する

──こうした積み重ねが、スタッフにとって「チャレンジしていいんだ」「考えることが大事なんだ」という安心感を生みます。

また、スタッフ自身が自分の仕事に意味を見出すアプローチとして、ジョブクラフティングという手法も効果的です。

これは、従業員が自らの仕事を再構築し、自分にとって意味のあるものに変えていくプロセスであり、以下のようなタイプがあります:

  • タスク・クラフティング:業務内容や手順を自分らしく工夫する

  • 関係性クラフティング:関わる人やコミュニケーションの質を見直す

  • 認知的クラフティング:仕事の目的や意味の捉え方を変える

こうした働きかけを支援することで、スタッフが仕事に対して深い満足感と自律性を持てるようになります。

組織の力は「やらされる」から「やってみたい」へと進化する

リーダーシップは、「人を動かす力」ではなく、**「人が動きたくなる環境を整える力」**であると捉え直す必要があります。

医療・介護の現場は、日々の業務が多忙で、余力があるわけではありません。だからこそ、やらされ感を減らし、自ら動ける組織文化を育てることが重要です。

当社では、医療・介護現場の中間管理職に特化したリーダー育成支援や、職員の自発性を引き出す組織改善支援を提供しています。
ご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

2025.6.9