本コラムでは2020年12月時点の全世代型社会保障改革を取り上げます。
全世代型社会保障改革とは、“高齢者中心の社会保障の給付” “その負担は現役世代中心” “若い世代の恩恵が少ない” といった社会保障の構造的問題を見直し、全ての世代が公平にお金を出し合って互いを支え合うことを目的とした改革です。現在は凡そ社会保障費の半分弱が年金、3割が医療費、1割弱が介護対策として給付されています。
本改革の背景には2040年問題があります。2040年問題とは、人口の多い団塊ジュニア世代が70歳を超えると共に現役世代の人口が大幅に減少ことで発生する“働きて不足の深刻化”といった問題を指します。
全世代型社会保障改革は2040年問題に対する政策という位置づけでもあります。
令和2年12月14日付けで全世代型社会保障改革の方針(案)が公開されました。主な論点は、①少子化対策、②医療提供の体制変更、③医療費負担割合の増加です。
(a)新型コロナウイルスの対応として、各都道府県の医療計画に新興感染症への対応が組み込まれることとなりました。ここには高度経済成長と共に整備されてきた医療インフラの構造的問題が内包されています。
新型コロナウイルス感染者数に対して病床数が足りないのではありません。受入れ可能な病院の少ないことが医療ひっ迫の要因です。ほとんどの中小規模病院(=200床未満)では新型コロナウイルス感染者を受け入れられるだけの人的財的体力がありません。その中小規模病院が日本の病院全体の約7割を占める状況は今の人口減少の時代にはそぐわなくなってきたと言えます。市場原理に則って病院を統廃合できる仕組みづくりが必要なのかもしれません。
(b)かかりつけ医機能の強化に関しては、現在“紹介状なしの定額負担”や“一定要件を満たす指導料・医学管理料の設定(生活習慣病の管理等)”に焦点が当てられています。しかしその前に、“かかりつけ医とは何か”がはっきりしていない方が大半です。例えば、かかりつけ医制度が最初に受診する医療機関を指定する仕組みであると捉えると、フリーアクセス(保険証1枚で全国の保険診療が享受できる医療制度)という現制度の基本構想と逆行します。その他、国民1人1人のかかりつけ医を誰が決めるのか、かかりつけ医を担う医師がいるのか等々、かかりつけ医の定義について解消すべき課題が沢山あります。日本の保険診療における“かかりつけ医とは何か”を明確にすることが優先事項であると考えられます。
(c)オンライン診療の推進には、その是非についてまだ意見の対立が続いていると言われています。この分野についてはすっかり後進国になってしまった日本ですが、オンライン診療の是非に留まらず処方箋や処方薬の受領、診療データベースの一元化などより広い視点で制度設計を試みる必要があります。
(e)大病院受診の実費負担に関する方針も掲げられています。現状、特定機能病院及び一般病床200床以上の地域医療支援病院へ紹介状なしで外来受診した場合に5,000円(医科初診)の実費が求めてられています。
この大病院の定義の拡大と、実費の増額が議論されています。定額負担の狙いは軽症者に対する大病院受診の抑制であると考えられますが、お金で解決できる部分は限られています。上述のかかりつけ医機能も含め、今後は受診理由と受診する医療機関との関係を整理し、その関係性に準じた仕組みづくりや国民教育が必要になってくるでしょう。
社会保障と税の一体改革の後継である全世代型社会保障改革はまだ始まったばかりです。今回の方針は少子化対策と医療費の効率化および医療費の負担割合に限定されました。
この改革が2040年問題に対する政策であるという視点では、“外国人労働者の受け入れ” “ICT化による生産性向上” “病気や介護状態に対する予防強化” “シニア世代の労働環境づくり” にも着手していく必要があります。いずれもこれまで経験したことのない大きな問題ばかりです。
“20年後どのような日本になりたいか”私たち1人1人が真面目に向き合う時期がきたのかもしれません。
(参照情報) 全世代型社会保障改革の方針(案) 令和2年12月14日 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zensedaigata_shakaihoshou/dai12/siryou1.pdf