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職員が辞めない組織づくり

──感情労働の見える化と報酬の在り方

感情労働という“見えない負担”

医療・介護現場の離職要因を探ると、待遇や人間関係、業務量といった表面的な問題だけでなく、**「感情労働の負担」**が大きく影響していることがわかります。
感情労働とは、サービス提供者が「笑顔」「安心感」「思いやり」といった感情を表現することを求められる仕事上の特性を指します。利用者や家族に寄り添い、時に怒りや悲しみを受け止めるその労働は、身体的な負担以上に職員を疲弊させます。

しかし現状では、この“感情のエネルギー消耗”が人事制度や報酬体系に十分に反映されていないのが実情です。

見えない負担が離職を招く背景

離職率の高い職場では、次のような特徴が目立ちます。

  • 利用者対応での精神的ストレスが「個人の性格や忍耐力」に片付けられる

  • 管理者がスタッフの感情面のケアに割く時間が限られている

  • 成果が「件数」や「スピード」でのみ評価され、感情的配慮の価値が埋もれている

結果として、職員は「自分の頑張りが評価されない」「誰にも理解されない」と感じ、退職という選択をしてしまうのです。

改善の鍵①:感情労働の“見える化”

まず必要なのは、感情労働を「曖昧な努力」から「評価可能な貢献」へと変換することです。
具体的には、以下の仕組みが有効です。

  • ケアの質に関するフィードバック:利用者や家族からの声を定期的に収集し、評価指標に加える。

  • 情緒的サポートの記録:対応が難しかったケースや職員の工夫を共有シートに残し、組織全体の学びにする。

  • チーム内振り返り:月1回の短時間ミーティングで「大変だった場面」「嬉しかった言葉」を共有し、感情労働を組織で認知する。

これにより、職員は「見えない努力が認められている」と実感できます。

改善の鍵②:報酬と処遇の再設計

次に重要なのは、見える化した感情労働を報酬・処遇制度にどう反映させるかです。

  • 加算や処遇改善加算の活用:制度上の手当を最大限に活用し、給与に反映する。

  • 情緒的スキル評価を昇給基準に組み込む:単なる勤続年数ではなく、利用者満足度やチーム貢献度を評価に入れる。

  • メンタルサポート手当・表彰制度:高ストレス対応を担った職員に対して、手当や表彰でフォローする。

金銭的評価と非金銭的評価を組み合わせることで、「辞めない理由」を強化できます。

改善の鍵③:組織文化の転換

制度の見直しに加え、「感情を語っていい文化」を育てることも不可欠です。
管理者が率先して「今日は大変だったね」「ありがとう」と声をかけるだけでも、職員は救われます。心理的安全性が高まれば、感情を抑え込むのではなく、共有し合う職場文化が根づきます。

感情労働を支える“制度づくり”

当社は、医療・介護事業に特化した経営コンサルティング会社として、

  • 感情労働を評価に組み込む制度設計

  • スタッフのモチベーション維持の仕組み化

  • 定着率改善のための人事制度再構築支援

を提供しています。机上の制度設計にとどまらず、現場で運用できる形に落とし込むことを重視しています。

「なぜ辞めてしまうのかが分からない」「処遇改善加算をどう活用すべきか悩んでいる」――そんなときこそ、ぜひご相談ください。感情労働を正しく認め、報酬と文化に反映させることが、“職員が辞めない組織”づくりの第一歩となります。

2025.9.22