制度と現場の狭間で起きていること
日本の医療・介護制度は、高齢化社会を支える二本柱として整備されてきました。しかし実際の現場では、「どちらにも当てはまらない」人やケースが少なくありません。
たとえば、急性期治療を終えた患者が在宅へ戻る際、医療的ケアが必要だが介護保険の枠組みでは支援が不十分な場合。あるいは、認知症の独居高齢者が介護サービスを拒否し、行政も介入できずに孤立してしまうケース。
このように、制度と制度の“すき間”に支援が届かない状況は、現場の医療・介護従事者にとって日常的な課題となっています。制度が複雑化すればするほど、利用者よりも「制度側の都合」で線引きが行われるという矛盾が浮き彫りになります。
医療と介護の連携を促す政策は、診療報酬・介護報酬の改定でも毎回強調されています。しかし、実際の現場では「この患者は医療なのか介護なのか」をめぐる調整に時間がかかり、結果として誰も主体的に関わらないまま支援が遅れることがあります。
背景には、制度上の“縦割り構造”があります。医療機関は医師法・医療法のもと、介護事業所は介護保険法のもとで運営され、財源も報酬体系も異なります。行政窓口や監督官庁が分かれているため、現場の判断だけでは動けないことも多いのです。
こうして「役割分担」のはずだった仕組みが、現場では「責任の押し付け合い」に変わってしまう──これが制度の狭間の本質的な問題です。
この構造的な課題を打開するカギは、現場からの“越境” にあります。
たとえば、病院の地域連携室が退院後の生活を見据えて、ケアマネジャーや訪問看護ステーションと早期に情報共有する。
あるいは、介護事業所が医療的ケアを理解し、医療機関と共にリスク管理を行う。
重要なのは、制度の枠を超えて「この人に何が必要か」を起点に議論することです。現場発の連携こそが、制度のすき間を埋める最前線です。
そのためには、現場職員が制度や報酬の仕組みを理解し、自分たちの行動がどう経営や制度運用に影響するのかを把握する“政策リテラシー”も求められます。
制度で人の行動を制限するのではなく、制度を現場の創意を支える“緩和的な仕組み”に転換することが重要です。
ルールを細かく定めすぎることで、かえって支援が遅れる、責任の所在が曖昧になるといった弊害も少なくありません。制度は「守るための壁」ではなく、「動けるための枠組み」として機能すべきです。
その分、現場のマネジメント力──つまり「人がどう判断し、どう動くか」──が成果を左右するようになります。
ここに一定の競争原理を働かせることで、地域間・事業者間で創意工夫が生まれ、支援の質やスピードが高まる可能性もあります。
制度が一律に平準化を目指すのではなく、現場が優れた実践を生み出し、それを横展開していく仕組みへと進化させることが、今後の社会保障改革の鍵となるでしょう。
制度の限界を補うのは、結局のところ「人と人との連携」です。
法律や報酬が変わるのを待つのではなく、現場が主体的に動き、互いの専門性を補完し合う仕組みを作ることが、医療・介護の未来を支える力になります。
制度の隙間を埋めるのは、制度そのものではなく「現場の創意と協働」です。
現場から制度を動かす連携づくりを、共に始めてみませんか。