──医療DXで変わる管理会計
「部門別採算は作っているが、経営判断に使えていない」
これは、多くの医療機関で共通する悩みです。
数字は並んでいるものの、
・どこに手を打つべきか
・なぜ赤字・黒字なのか
・現場をどう変えればいいのか
が見えてこない。
この状態では、部門別採算は“管理”ではなく“報告資料”に留まってしまいます。
本コラムでは、部門別採算が機能しなくなる構造的な理由と、医療DXによってどう再設計すべきかを整理します。
▶ 関連コラム:医療・介護現場で“見える化”から始める経営改善
診療科別・部門別に採算を出しても、実際の医療提供は多職種・多部門の連携で成り立っています。
業務が横断的なのに、会計だけが縦割りのままでは、
誰がどの価値を生んでいるのか
どこに負荷が集中しているのか
が見えません。
結果として、部門別採算は「評価用の数字」になり、改善に使われなくなります。
多くの医療機関では、部門別採算を「所属単位」で整理しています。
しかし実際の医療現場では、
外来・入院・検査・地域連携などをまたいだチーム医療
繁忙期や欠員時の部門間の業務応援
役割を固定できない柔軟な働き方
が日常的に行われています。
にもかかわらず、こうした業務の横断性や負荷の偏りが数字に反映されないままでは、
「忙しい部門ほど非効率に見える」「努力しても改善が数字に表れない」といった歪みが生じます。
その結果、
・現場が数字に納得できない
・改善の方向性が見えない
・“生産性”という言葉が空回りする
という状態に陥りやすくなります。
▶ 関連コラム:収益ではなく生産性を見よ──部門別採算管理のすすめ
部門別採算は本来、意思決定のための情報です。
しかし実際には、
毎月作成して会議で眺めて終わり
現場へのフィードバックがない
という運用になっているケースが少なくありません。
これでは、管理会計が現場から距離を置かれてしまいます。
医療DXの本質は、ツール導入ではなくデータの接続です。
レセプトデータ
勤怠・シフト
業務量(件数・時間)
これらを組み合わせることで、
「どの部門・業務が、どれだけ価値を生んでいるか」が初めて見えるようになります。
最初から精緻な原価計算を目指す必要はありません。
重要なのは、
まず見える化する
違和感を現場と対話する
必要に応じて設計を修正する
という改善前提の設計です。
このプロセス自体が、DXによる経営改善になります。
再設計された部門別採算は、
「どの部門が悪いか」を決めるためのものではありません。
なぜこの数字になっているのか
ボトルネックはどこか
全体最適のために何を変えるべきか
を考えるための共通言語として使うことが重要です。
部門別採算が機能しない理由は、現場の努力不足ではありません。
多くの場合、業務構造と会計構造が噛み合っていないことが原因です。
部門別採算の導入・見直しや、医療DXを活用した経営改善を検討されている場合は、まず現状整理から始めることが重要です。
「何から手を付けるべきか分からない」という段階でも構いません。