コラム

収益ではなく生産性を見よ──部門別採算管理のすすめ

コラム

──「数字が見える」と、人も組織も変わり始める

収益だけを見ても経営は改善しない

医療・介護経営において、「収益がいくらだったか」という数字だけでは、経営の健全性は見えてきません。
収益が高い部門=経営に貢献している部門とは限らないからです。

たとえば、収益は高くても人員やコストを過剰に投入していれば、黒字どころか赤字になっているケースもあります。
反対に、収益は多くないが効率的な人員配置で、少ないリソースから安定した利益を生み出している部署も存在します。

そこで重要になるのが、「生産性=限られた経営資源でどれだけ利益を生み出しているか」に注目すること。
これを明らかにするのが、部門別採算管理の考え方です。

“人と時間”に着目した採算管理のすすめ

部門別採算とは、各部署や機能単位で「収益」「直接経費」「間接配賦コスト」などを整理し、貢献利益(粗利)や利益率を可視化する仕組みです。

たとえば、以下のような数値が把握できます:

  • 外来部門A:月間収益200万円-部門経費160万円 → 貢献利益40万円

  • 外来部門B:月間収益120万円-部門経費80万円 → 貢献利益40万円

どちらも利益額は同じですが、「一人当たり貢献利益」が異なれば、改善のアプローチはまったく違ってきます

このように、単なる「売上」ではなく、「生産性=コストとのバランス」まで見えることが重要なのです。

「見える化」は現場との対話を生む

部門別採算は、経営層だけが見る数字ではありません。
むしろ、現場の管理者やスタッフと共有することで、主体的な改善行動を促すツールになります。

  • 「自分たちの部門は、今どれくらい利益に貢献できているか」

  • 「人員配置や稼働の工夫で、生産性をもっと高められないか?」

  • 「稼働率の低下が続いている。どう立て直すか?」

こうした**“問い”と“気づき”が生まれる場**をつくることで、数値は単なる管理指標ではなく、「現場を動かす言語」になります。

また、現場の頑張りが可視化されることは、組織への貢献を実感する機会にもなります。

データは「責めるため」ではなく「支えるため」に使う

仕組みの導入に対して、「現場の萎縮を招くのではないか」と懸念する声もあります。
しかし、ポイントは“数字をどう使うか”です。

  • 攻めるためではなく、現状を正しく知るため

  • 競わせるのではなく、気づきを促すため

  • 罰するのではなく、支援の優先順位をつけるため

このように、“支援型の数字”として活用する姿勢が、健全な組織文化と改善行動を生みます。

Excelから始める部門別採算──最初の一歩は小さくていい

本格的な管理会計システムを導入する前に、Excelで部門別採算の原型をつくることは十分可能です。

おすすめのスタート:

  • 月別・部門別で【収益】【人件費】【材料費】【貢献利益】を並べるシンプルな表

  • 職員1人あたりの貢献利益、1件あたり単価などの簡単なKPIを設定

  • 月1回のミーティングで、数字の変化を全体で確認・対話

このような「見える化の習慣」が、継続的な経営改善の文化を組織に根づかせます。

生産性の見える化は、持続可能な経営の基盤

厳しい制度改定の波が続くなか、医療・介護経営では「選択と集中」の意思決定が求められています。
そのとき、収益だけでなく生産性という視点を持つことは、非常に大きな差を生みます。

「見える化」は、コスト削減ではなく、持続可能な経営のための“賢い投資判断”を下すためのツールです。

当社では、部門別採算表の設計支援、スタッフ向けの“数字の読み方”研修、改善会議の設計支援などを通じて、現場の納得と行動を促す仕組みづくりをサポートしています。

「収益を増やす」ではなく、「生産性で見る」経営の視点、はじめてみませんか?

2025.7.14