コラム

医療・介護現場で“見える化”から始める経営改善

コラム

〜データを使わない「感覚の経営」から脱却する〜

経営改善は「気づき」から始まる

「このままではいけない」と思いながらも、何から手をつけるべきかわからない──
そんな悩みを抱える中小病院や介護施設の経営者は少なくありません。

利益が出にくく、人手不足も深刻。現場は忙しく、数字に目を向ける余裕もない――その結果、「感覚」に頼った経営判断が続いているケースも多いのではないでしょうか。

だからこそ、経営改善の第一歩は**「気づくこと」**です。
現場で何が起きているのか、どこで利益が生まれ、どこにロスがあるのか──
まずはその全体像を「見える化」し、事実を捉えるところから始めましょう。
それは帳票をそろえることではなく、「現場の働き方と収益がどうつながっているのか」を見えるようにすることです。

現場では、レセプト収益や加算は見えていても、

  • スタッフの稼働時間

  • 各部門の発生経費

  • 利益率や生産性

といった視点が抜けていることが少なくありません。

たとえば、内科外来と外科外来が同じ患者数を診ていたとしても、
検査件数や対応時間が異なれば「実際の効率」は大きく違ってきます。
それが見えていなければ、人員配置や投資の判断も誤ってしまいます。

見える化は“対話”と“信頼”のきっかけになる

難しい仕組みや高価なシステムは不要です。
経営改善の第一歩は、Excelでできるシンプルな取り組みからで十分です。

  • 各部門の「月間収益」と「経費」を並べる

  • 業務ごとに大まかな稼働時間を記録する

  • それらを月に一度、現場と共有する

こうした小さな習慣が、組織の感度を高めます。
「この部門は30万円の赤字」「一人当たりの業務量が偏っている」
といった事実が見えるようになれば、施策の優先順位が明確になります。

数字を見える化することは、経営側が現場を「監視」するためではありません。
本来の目的は、経営と現場の共通言語を持つことにあります。

たとえば、

  • 「この業務は手間がかかっているのに評価されていない」

  • 「一部の部署に過剰な負担がかかっている」

  • 「改善したいけど、どこをどうすればいいのか根拠がない」

──こうした現場の声も、「数字」という形で共有されることで、議論の土台が整い、建設的な対話が生まれます。

また、数字に表れた改善の成果をきちんと共有すれば、スタッフの承認欲求や達成感も満たされ、モチベーション向上にもつながります。


ある病院では、毎月の部門別収益と発生経費を集計し、院長とリーダー会議で共有する仕組みを始めました。
当初は一部の現場スタッフから「数字だけで判断されるのでは」という懸念もありましたが、次第に状況は変化します。

とくに貢献利益が低く出た外科病棟では、「本来の役割をもっと評価されたい」「どうすれば改善できるか自分たちでも考えたい」という声が自然に上がるようになり、業務の棚卸とプロセス改善の提案が現場主導で進むようになったのです。

その後は、他部署からも「うちでもやってみたい」「もっと細かく分析できないか」といった前向きな反応が出るようになり、病院全体で「数字を使って話す」文化が育ち始めました。


このように、数字を“見せる”ことは、単に経営指標を明らかにするだけでなく、現場との信頼関係を強め、組織全体の自律的な改善行動を促すきっかけにもなります。

小さな可視化から、持続的な改善へ

経営改善は、いきなり大胆な改革から始まるものではありません。
まずは、目の前の業務や部門の数字に“気づく”ことからすべてが始まります。

たとえば──

  • 月1回、Excelで各部門の収益と発生経費を並べてみる

  • 稼働時間の目安を記録して、1人あたりの貢献利益をざっくり出してみる

  • それを院内のリーダー会議で共有してみる

こうした**小さな“見える化”**の積み重ねこそが、現場との対話を促し、改善の文化を育てる第一歩になります。

そして、一度数字をもとにした対話が始まると、それは止まらない“循環”に変わります。

  • 「なぜこの部署の利益率が高いのか」

  • 「どうすれば他の部門にも横展開できるか」

  • 「数値改善のためにどんな支援が必要か」

──こうした問いが自然に生まれ、現場が自ら考え、行動する組織へと変わっていくのです。

当社では、Excelを活用した部門別採算管理の導入支援や、職員を巻き込む経営改善の伴走支援も行っております。
ご関心のある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

2025.5.26