コラム

社会保障政策の焦点は2040年問題へ

日本の社会保障政策は2025年問題から2040年問題へと焦点が変わり始めています。
今回はこの2つの問題と対策の概要を取り上げます。

日本の人口動態

日本の人口は2000年頃まで増加を続けていましたが、近年は1億2,000万人程で横ばいとなっています。
今後は1億2,700万人超をピークに人口減少が続き、2060年には9,000万人を下回ると推計されています。

日本の人口が減少していくことも問題ですが、年齢構成の変化も深刻です。
65歳以上の人口比率は2013年に25%を超え国民の4人に1人は65歳以上になりました。
この比率は2060年には39.9%に達すると推計されており、5人に2人は65歳以上で構成される社会をこれから迎えようとしています。

2025年問題とは

少子高齢化が急速に進んでいる日本ですが、これは年代別の人口にバラツキが生じていると言い換えることもできます。
他よりも飛び抜けて人口の多い世代が2つあります。それが団塊の世代(1947年~1949年生まれ・第一次ベビーブームとも呼ばれている)と団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ・第二次ベビーブームとも呼ばれている)の2つです。

2025年は最も人口が多い年代である団塊の世代が75歳になる年であり、これによって生じる医療・介護需要の急拡大や社会保障費の急激な増大といった問題を2025問題と言われています。(年齢を厳密に見ると2~3年ずれていますね)

この2025年問題に対する政策を一般的に「社会保障と税の一体改革」と言われています。

少子高齢化という言葉を使うと高齢化にスポットを当てた政策と言えます。主な施策をいくつか見てみましょう。

 

  • 地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムは、例えば“病院は病気を治す”“介護施設は介護の状態を維持・改善させる”というようにそれぞれの事業体で住民の困り事をピンポイントで解決させるのではなく、地域全体で住民の困り事を包括的に解決させようとする取り組みです。
住み慣れた町でずっと心身共に元気で生活を続けることができるシステムとも言うことができます。

これまでは診療所・病院・歯科医院・介護施設などそれぞれの事業体ありきで産業が成長していきました。
その結果、例えば病院では、自宅から30分移動圏内に大学病院クラスの高度な医療ができる病院が複数あるけれど、リハビリなど身体機能を重点的に回復させる病院がない等、医療機能の偏りがあったり、地域によって病院が多すぎる・少なすぎるという過不足があったりして医療サービスの提供ひいては社会保障費の使い方に非効率が生じています。

このような各事業体で完結させるという視点を解消するために、在宅医療の充実(早期退院・早期退所の促進もこれに含まれます)や住まいのサービス(サービス付き高齢者向け住宅・介護付き有料老人ホーム等)の拡充など医療・介護サービスの需給バランスの調整や包括的なサービスの推進がなされてきました。

2018年の診療報酬・介護報酬同時改定では、医療と介護の連携、医科と歯科の連携、福祉サービス参入の緩和など事業体同士の連携・共同に対する評価項目の新設が目立ち、地域包括ケアシステム実現に向けた舵取りが進捗していると言えます。

 

  • 社会保障給付費の削減と歳入確保

年齢と医療・介護・年金の支出には相関関係があるため、高齢者人口が増えることは社会保障費が拡大することに直結します。
この社会保障費の伸び幅を抑制するための施策が複数打たれています。

国が支出する社会保障費(社会保障給付費)を削減するために、患者自己負担の引き上げ(70~74歳の自己負担を1割から2割に引き上げる等)や後発医薬品の推進などが行われています。

歳入確保として、消費税率の引き上げ増収分の割り当てが該当します。
使途を見ると国保への財政支援や低所得者の補助などが見られますが、2025年問題やその後の日本の社会保障問題を見据えた施策であったのか疑問が残るところです。

次の焦点は2040年問題

2025年問題に目を向けた社会保障と税の一体改革は2019年10月の消費税率10%引き上げをもって完了とされています。
そして今後は2040年問題に焦点を当てた政策が始められます。

2040年は団塊ジュニア世代が70歳を超える年であり、現役世代の減少が顕著になることで生じる様々な問題を2040年問題と言われています。
2025年問題と本質は同じですが、分かりやすいマイルストーンを設定しているのでしょう。

2040年問題対策の主旨は働き手の充足です。
以下のような議題が今後重点的に議論されると考えられます。

  1. 病気や要介護に対する予防の強化
  2. 元気な高齢者が働ける環境づくり
  3. 外国人労働者の受け入れ加速
  4. 仕事と育児の両立対策
  5. ICT等技術の導入による生産性向上

これらを全世代型社会保障制度と位置づけ、改革が進められるものと思われます。
一見すると診療報酬や介護報酬とは関係の薄いテーマですが、これからの改定は2040年問題を意識した方向転換が図られることは間違いありません。

つまり医療機関や介護事業所は毎回の改定に一喜一憂するのではなく、これらの中長期的な方向性を踏まえて経営判断する必要があるということです。
世界に例を見ない社会環境に先進的に挑み続けることが今後ますます求められます。

(参照情報)
国立社会保障・人口問題研究所
http://www.ipss.go.jp/
2040年を展望した社会保障・働き方改革本部
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syakaihosyou_306350_00001.html
第75回社会保障審議会介護保険部会資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000184159_00002.html

 

2019.3.19